今年に入ってからの人文系の読書について記します。
猪瀬直樹『昭和16年の敗戦』
総力戦研究所は以前から知っていましたが、こちらを取り扱った本を読んだのは初めてです。だた総力研究所が戦争の推移を高い精度で予測するということはすでに知っていたので余り新鮮さはありませんでした。本筋とずれていますが一番印象に残ったのは東條英機の最後です。裁判に出欠しなければ天皇に累が及ぶ。一方で『生きて虜囚の辱めを受けず』で多くの人を死に追いやった以上、自らも自決しようと思い悩むさまには驚きました。昔読んだ村上春樹の1Q84など東条英機の自決失敗は否定的な見方しか見てこなかったため初めての視点でした。
堀越秀美『女の子は本当にピンクが好きなのか』
演技であったり、思い込みであったりが成績に与える影響は気になりました。華麗なるギャッツビーは確か高校生のときに一度読んだことはありますが、『あんなピンクのスーツを着る奴がオックスフォード出身なわけがない』というのは思い出せませんでした。当時ではピンクは労働階級の象徴のようですが、こういった背景知識が増えれば、昔は分からなかった華麗なるギャッツビーの味わいが分かるのかもしれません。
浅井直哉『政党助成とカルテル政党』
海外の『カルテル化する政党』という研究を日本に当てはめた本です。1990年代以降、民主党が自民党に代わりうる政党として政党助成金が果たした役割について説明があります。また孫引きですが
岩井によると、1986-1988年の3年間を対象とした事業収入の比率は、高い順に共産党、公明党、社民党、民社党、自民党となり、「党の組織力や中央集権の強さに一致」しており、党費への依存度が低くなるにつれて、党本部における中央集権的な性格が強くなるという。とあり、資金元から見た党中央の強さは興味深いです。最近できた中道改革連合の資金力と中央集権化がどうなっているか気になるところです。著者は総括で政党助成制度が新党の参入を阻害しているかはさらなる議論の必要性があると結論付けていますが、参政党の今後から窺うことができるかもしれません。
石川達三『金環食』
1960年代にあった九頭竜川の汚職事件が基になっていますが、総理夫人の名刺のために役人が自殺し、誰も責任を取らず、汚職で税金が浪費されるというのは現代にも通じるところがあると思います。
清澤洌『暗黒日記』
戦中に書かれた日記です。いくつか印象に残った文章を書き写します。
昭和十八年現在、青空文庫で読めます。
七月十四日(水)
物を知らぬ者が、物を知っている者を嘲笑軽視するところに、必ず誤算が起る。太平洋戰爭前に、国際事情に精通している専門家は、相談されなかったのみではなく、一切口を封じ込められた。信州の翼壯が軽井沢のゴルフ場閉鎖を主張するのは、近衞(文麿)や後藤(文夫・国務相・翼賛会副総裁)がそんなことをしていたんでは、増産も何も出來ぬというにある由。彼らは知識人が休息の要あるを知らぬほど無知であり、その根柢に破壞と嫉妬あるを見る。
七月十五日(木)
僕はかつて田中義一内閣のときに、対支強硬政策というものは最後だろうと書いたことがあった。田中の無茶な失敗によって、国民の眼が覚めたと考えたからである。しかし、国民はさように反省的なものでないことを知った。
地方では、米国が戰爭に勝てば、財産は取り上げられ、国民は殺されると固く信じている由。無知はこの程度である。
十一月十四日(日)
支那にいる日本人は、みな買手さえあれば財産を売って、日本に引き揚げたいと考えているそうだ。それも古い支那通がそうなのである。この戰爭の結果、北米、南米、支那、その他あらゆる方面に、営々として築いた努力が、根こそぎに失われるのだ。
昭和十九年
七月二十九日(土)
無裝荷ケーブル、電波兵器の権威として知られる通信院工務局長・工博・松前重義氏はこのほど一兵士として応召入隊した。こうした例は無数にある。戰力増強の中枢人物を一兵士として召集するのだ。
世の中に思想ほど恐くないものはない。それはその人の納得なしでは入って來ないから。これに反し暴力ほど恐いものはない。それは自分でどうにもならないから。
十一月十五日(水)
今日は東洋経済の五十周年記念日である。英国ならば石橋君はこの機会に Sir ぐらいにはなっていよう。日本では知識や文化に対する評価は極めて軽い。ことにジャーナリズムに対して。
次はカルテル化する政党と「政治資金」の研究を読む予定です。その次はトランプ関連の書籍か、中途半端に読み散らかしているパスカルのパンセを読みます。